トヨタ生産方式

トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして

トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして

ケントベックがトヨタトヨタとうるさいので買ってきて読みました。1978年刊行のこの本が平積みでしたよ。

トヨタ生産方式の二本柱は「ジャスト・イン・タイム」と「自働化

ジャスト・イン・タイムは、よく知られるように「必要なときにそのつど、必要なだけ」部品が生産ラインに到着するということ。
自働化(自動化ではなく)は、不良品を察知したら停止する仕組みを機械にビルトインすること。豊田佐吉氏の開発した豊田自働織機は、経糸が切れたり横糸がなくなったりしたら停止するようになっていた。これが元。
この「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」が、トヨタ生産方式の大Principleですね。
これを具現化する「あんどん」「かんばん」「不良品があったらラインストップ」というような有名なPracticeがいろいろあるわけです。

で、Valueは?

この本には、トヨタ生産方式で実現しようとするValueについても、多くのページが割かれています。
一つは、豊田佐吉豊田喜一郎という企業としてのトヨタの祖の思想。こちらは、「日本人としての気概、誇りを見せる」「価値あるものを安価に提供する」というところに重きがおかれているようです。
もう一つ、大きく取り上げられるのが(意外にも)ヘンリー・フォード一世の説く「効率」の思想。特に印象深いところを引用すると、

われわれが思いわずらうべきことは、人間労働のムダについてである。(中略)
ムダについての私の理論は、物それ自体から、物を生産する労働へとさかのぼる。労働の価値全部に対して支払いができるようにするために、労働の価値全部を利用したいというのがわれわれの希望である。(中略)われわれは、人間の時間をムダにしないようにするために、物質をその極限まで使うことを望んでいる。

大野氏のヘンリー・フォードに対するリスペクトは相当なもので、

もしもアメリカの自動車王ヘンリー・フォード一世がいま生きていたら、私どもが取り組んできたトヨタ生産方式と同じことをやったにちがいないと思う。

とまで言っています。

作りすぎのムダ

トヨタ生産方式の眼目はムダの徹底分析・徹底排除にあるわけですが、もっとも忌むべきムダとして「作りすぎのムダ」があげられています。作りすぎるために、在庫そのもの、おいておくための倉庫、在庫管理のための労力といった二次三次のムダが発生してしまい、しかもそれが役に立つように見えてしまうので始末が悪い。

メソッドの普及と個人の権限拡大

もう一つ興味深かったのが、「トヨタ生産方式」を徐々に広め、実践していった過程の話。最初は「トヨタ式」ではなく「大野式」だったわけで、やり方を変えることに対する抵抗も相当強かった(そりゃそうだ)そうですが、大野氏いわく「トップが太っ腹だったおかげで」大野氏の権限拡大(ラインの長から製造部長、工場長へ)とともに適用範囲を広げ、10年かかってトヨタ内部で「かんばん」を使うようになったとのこと。
その間の努力、信念を思うと、先に触れた先人を惜しげもなく賞賛する人柄と合わせて、感銘を受けるものがあります。