虚妄の成果主義isbn:4822243729

巷間もてはやされている「成果主義人事」を導入しても、会社の業績はあがりませんよ、というお話。
年功賃金制と長期的な雇用(この本では「コミットメント」と呼んでいる)が、成果主義賃金と短期雇用に比べて優れていることを、経営学の理論を援用して主張しています。
この本を呼んでいる間に、こんな書評?を見つけました。
なんというか... この池田さんという方、どこだかの研究員という肩書で、文章を読んだり書いたりするのを商売にされているみたいなんですが、ちょっと大丈夫? という感じです。この本をちらっとでも見てみれば、論文ではなくビジネスマン向けの読み物だということはわかると思うのですが、「学界では常識だ!」「俺はこんなことも知ってるぜ!」のオンパレード。おまけに、「成果主義賃金が正しくないから年功賃金が正しい」という、著者が主張していないことを論破して悦に入っている始末。まあ物書きのプロにはプロの世界があるのかもしれませんが。
ダニエル・ベルが「イデオロギーの終焉」という自著に触れたエッセイで、「この本ほど、中身を読まずにタイトルだけ見た人たちの批評を浴びた本はない」と嘆息していたのを思い出しました。別に池田さんが「虚妄の成果主義」を読んでいないとは言いませんが。
話がだいぶ横にそれました。この本の中で、「日本的雇用慣行」についての古典であるロナルド・ドーア「日本の工場・イギリスの工場」isbn:4480080597について触れられています。1970年代くらい? の日本とイギリスの典型的な大工場での雇用慣行を生き生きと描いていて大変面白かったのですが、それ以上にすごいのは理論的な展開。長期雇用、年功賃金といった「日本的特徴」の発生源を儒教やらムラやらといった文化的な背景に求めるのではなく、「後発で経済発展する社会ではみんなこうなるはずだ」という社会発展のしくみに求めた点です。私にはそれが正しい理論だったのかどうかは検証できませんが、「日本は独特の閉鎖的な社会で...」「縦社会が...」というような、説明になっていない説明ばかり読んで胡散臭く思っていた私には大変ヒットしました。今から10年くらい昔、大学生のころの話ですが。